ヒグラシの鳴き声をキーワードにしつつ、民俗学、大脳生理学、心理学の断片に身近な観点から触れます。
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 ★「今年の録音」

   2015年8月8日 記
私の半生をかけたヒグラシの鳴き声録音も集大成に入った感じで、新しい場所を次々発見しています。
実は今年は作曲に集中する為にあまりやらないつもりだったのですが、いい場所でいい音が録れてしまったので、また深みにはまってしまいました。(笑)でも録音しながらアウトドアチェアに座って楽譜をかいて作曲したりしています。涼しいしはかどります。

また、今まで、主目的の、みなさんの知らない「朝の荘厳な全員合唱」は録ってきましたが、一般にイメージされる「夕暮れのだんだん消え入る鳴き声」はなかなか録れないでいました。
 というのは、これは多くの人が知っている「音」なので、能勢がわざわざ録音して紹介する必要もないかな、と思っていたのですが、やはりCDとして提供する時に、未知のSF的な鳴き方だけではご不満かな・・。と思い、癒され〜る〜音も録音しようと時々試みて来たのですが、なかなか難しい。
 朝4時というのはまだ人間どもがあまり活動していないので、山奥などに行けば余分な音が入らないでとれる場所がなんとか見つけられるのですが、夕方6時頃はそうは行きません。
 まず他のセミの鳴き声ががんがんにかぶってますし、車の音、飛行機の音、飼い犬の遠吠え、カラスの鳴き声、電車の通る音と踏切の遮断機の音、そして救急車のサイレンなど耳では気づかなかった音がマイクには分け隔てなく収録されてしまうのです。普段人間の耳は、必要な分だけ聞き取るよう取捨選択しているのです。車の通りの多い歩道でも友人と話せる場合、必要な音にフォーカスして、不要なノイズは無視しようとするわけですね。保育園でたくさんのこどもが遊んでいても、母親は自分のこどもの声を聞き分けたり。また、学校で休み時間にざわざわしてる中、誰かが自分の名前を言った?とびくっとする。(これは他人の評価を気にしている、イジメの対象にならないかおびえている、など心理的作用も働きますが。)
ちなみにこの能力の低い人間は大きい声で話します。温泉で馬鹿でかい声で話す「無神経系」の若者、ショッピングモールででかい声でしゃべるおばはん。(自分の話すことを聞いてもらえないと不安・不満なのでしょう。with内容の価値は著しく低い。)羞恥心を備えた優れた人間関係があれば、「声でけ〜よ」と注意してくれるが、たいていこういうやからは全員つるんででかい声でしゃべります。
 ところがマイクというのはそういう「嗜好」「心理作用」に関係なくまんべんなく録ってしまいます。もちろんある方向にだけ感度を高めた「超指向性マイク」とか、品質が悪くて低域が録れない、逆に高域がクリアーに録れないということはあります。でも良い音で録る為の品質のものですと、録音時に気づかなかった音が入っているものです。
 以前書きましたが、現場で可能な時はレコーダーにヘッドフォンをつないで向きやレベルを決めます。すると、実際の耳では聞こえなかった音がヘッドフォンをしたとたんに流れ込んできます。鳥のささやき声、風で葉と葉の擦れ合う音、遠くの沢の音・・・。雨の後なんかは、住宅地では次の日晴れていても、山の沢では3日ぐらいは水量がすごくて「どどどど・・」「ごォ〜〜」という音がするので、録音に適しません。これらは経験するうちに、ヘッドフォンをしなくても、この位置でこの向きならこういう音のはず、と予測出来るようになってきました。
 それで前の日に、目星を付けた場所に行ってニイニイゼミやアブラゼミ、カラスが鳴いていないか、確かめておき、翌日録音に行きます。このような経験値と工夫によって一般にイメージされる「夕暮れのだんだん消え入る鳴き声」は割と録れました。

 また、森の中ではなく、外から聴くまとまった鳴き声を録るのも困難でした。
森の中で録ると右から聞こえたり左から聞こえたりとステレオ効果がきわだって立体的なのですが、個々の鳴き方がくっきりして私の言う「リレー鳴き」「シンクロ鳴き」「鈴鳴き」を確かめることはできますが、「オルガン鳴き」のような全体に統合された音は紹介できないのです。
音楽で言えば、オーケストラのステージで奏者の席で聴けば、こちらからコントラバス、こちらからヴァイオリン群、隣からフルート、後ろからティンパニ、といったように周囲から聴こえてきますが、曲全体のバランスは損ないます。でも客席側から録ると、空気中で振動が混ざって。曲の意図されたバランスが浮かび上がってきます。
それで私の家の裏山等、少し離れた「引き」「俯瞰」で録りたいのですが難しいのです。

 やはりこちら側は人間の世界なので、人工的な音が入ってしまったり、自動車の音等、人間の気配が入ってしまうのです。
どんなに現場で涼しい気温やそよ風、開けた地形等、私が気持ちよくても聴く人には分からないので、音を優先しなければいけません。そこが映像と違うところです。

それが今年は、良い場所が見つけられて、この森が鳴く「引き」も録れたのです。

また、ちょろちょろ・・・しゃらしゃら・・という小川のさざめきと一緒に鳴く夕方の声も録れました。

毎年行っている「アトリエちびくろ」の「夏の図工教室」のお祭りがたいてい8月最初の土日で、この時は茨城の山で録音するのですが、その間、私の地元や八王子などは録れません。どうやらその間にチャンスがあったようなのです。今回はお祭りが次の週だったのと、結局行くのを断念したので、連続して録れました。これも関係して、収録したい音はほぼ録れたと思うので、CDに出来ると思います。

ただ、もともとン十年前にその茨城の「夏の図工教室」で木の上で寝ていて早朝に聴いた「UFO鳴き」はいまだ録れていません。そもそもこの謎を解きたくて録音が始まったのですが・・。本当にUFOが来ていたのかな?ああ、あの時勇気を出して、目を開けて確かめていたら・・・。でもそのとき宇宙人と目が合っていたら、ここにいないかもしれないし?
人生ッてそういうものかも知れませんね。「ニューシネマ・パラダイス」的な。
あとは再現でまた桜の木の上に簡易ツリーハウスを作って寝てみるか・・。すると例えば威嚇の為の特別な鳴き方とか、山のオルガン鳴きが地上とは違う響きに聞こえるとか、何かあるのかも?でもあの木の下は学生達が「泥プール」やゴミ穴でかなり掘り返して、ヒグラシがいなくなってしまったので、どうかな。

ともかく、みなさんそろそろヒグラシも寿命が近づいて来て、人里ではツクツクボウシにバトンタッチしつつあります。貴重な鳴き声に耳を傾けてみましょう。

 私は、夜明けに山の峰で聴くのが好きです。真っ暗な中、谷のほうからピアニッシモのオルガンのような持続音が柔らかい風に乗って少しずつ運ばれてきます。
しばらくして空がわずかに蒼く色着いて来ると、鳴き声の固まりは少しずつ抑揚がついて教会の少年合唱団のコラールのようです。まだ個々のひゅひゅひゅひゅ・・という音は分離してきません。シンクロ鳴きをリレーすることで持続音が谷で反射したり、空気中で混じったり風で拡散したりして一つの音色に聞こえるのです。
やがて音が谷を登って来ると、それぞれの鳴き声が連なっていることが分かるようになります。これは彼らが鳴きながら暗い側から光を求めて移動して来るのか、谷底から上に向かって徐々に目覚めて来るのか、まだわかりません。ただ、集団で飛ぶのは見たことがありません。
そして徐々に大きくなり、バックの持続音に加えて2匹以上がシンクロしていななく澄んだ鳴き声が浮かび上がってきます。同時に森の木々の形が見えるようになってきます。
空も薄いブルーになってきて、谷底から急斜面を登って来た、見えない透明の大きな竜のウロコがくちずさむかのようにあちらこちらからわずかに音程の違う鳴き声が聞こえてきます。
空の一部に朝焼けのオレンジが見えるとクライマックスで谷から自分のいる峠まで全体が震えて、たくさんのひゅひゅひゅひゅ・・がそらに飛び立って行くようです。と同時に涼しい風がふわ〜〜っと上がってきます。その風と音を裸になって浴びます。最高のヒグラシシャワー。目をつぶって深呼吸して、気化熱でひんやりする皮膚を感じながら、この宇宙に身をゆだねます。体も魂も浄化されるようです。
だれか一緒に裸で浴びてくれる女の人いないかな〜。(70年代じゃないんだよッ)

まあ、これは一般の人は中々体験出来ないでしょうけれど、午後に郊外で川をさかのぼって行ったり、滝の近くに行くとマイナスイオン効果と一緒に鳴き声を浴びれると思います。多い地域なら「鈴鳴き」といって日中でもグループで場所を変えながら鳴いています。そして少ない地域では5時過ぎから7時にかけて悲しげな感じで個別に鳴きます。侘び寂びの世界です。ただ、一般に映画やアニメで使われるような1匹が単独で時々鳴く、という状況はあまり出くわさないでしょう。(これはまた別の機会に)
 また、緑の多い地域、例えばムサ美の近く、鷹の台駅の裏の公園や、小平市で玉川上水や野火止用水沿い、小金井市なら小金井公園、瑞穂町ならスカイホールや農業高校近辺、青梅市だと青梅街道沿いを宮ノ平駅あたりから奥多摩方面等。
またはゴルフ場の近くではけっこう聴けることが多いです。
家の近くで鳴いているのに、朝の鳴き声を知らない人が多いので、もったいないな〜と思います。いったん4時23分に起きて聴いて、味わったらまた寝てもいいのに。
でも、聴けないよ、いないよ、という人は、私の発売するCDをお買い求めください。全額ではないですが東北復興支援に寄付します。

  2015年8月8日 記

 


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